小井土院長ブログ

疲れと「疲れを感じること」は別物?──疲労と疲労感のちがい

小井土 善彦 2025年04月30日

昨日、59現代医療鍼灸臨床研究会に参加しました。今回のテーマは、「疲労と鍼灸 臨床最前線」。実に興味深い内容でした

さて、日々の生活で「なんだか疲れが取れない…」と感じることはありませんか?私たちの身体は、疲労という実際のダメージと、疲労感という「疲れている」という感覚の、ふたつのサインを出していて、この2つは、似ているようで実は違うようです。 

●「疲労」は体の機能が落ちている状態のこと

たとえば、長時間パソコン作業をして、肩や目が重くなるといったことがあります。これは筋肉や神経、脳などが「もう限界に近いよ」と出している生理的なサインで、これが「疲労」です。

●「疲労感」は体からのアラーム

一方で、「今日はなんだかしんどいな」「やる気が出ない」というのは、身体が出している警告信号(アラーム)のようなもの。これが「疲労感」です。このアラームは、休んだほうがいいよ!という大切なメッセージ。

でも、疲労感を感じにくい人もいます。

頑張りすぎるタイプの方や、責任感が強い方は、「しんどさ」を自覚しないまま働き続けてしまうことも…。危ないタイプ!

●鍼灸は、「疲労」と「疲労感」の両方にアプローチすることが可能です。

鍼やお灸は、こり固まった筋肉をゆるめたり、自律神経のバランスを整えたりすることで、体の疲れ(疲労)を和らげるのはもちろん、心の疲れ(疲労感)にも働きかけます。

「自分がどれくらい疲れているのか分からない」「最近なんだか不調」と感じたら、それは身体からのアラームが鳴っているサインかもしれません。

無理せず、ぜひ一度リセットしにいらしてくださいね。

いゃ〜な汗

小井土 善彦 2025年04月13日

今日は「汗」について考えてみます。

4月も中旬になりました。雨が降るとまだまだ寒さを感じますが、湿度が高くなることで、重ね着をしていると、汗が出そうになることがあります。出始めの汗は、ベタベタしたり、臭いが気になるようは、いゃ〜な感じがしませんか?夏に向けて、学生の頃のように、サラサラした気持ち良い汗をかきたいものです。

汗腺には、手のひらや足の裏に分布している汗腺(アポクリン汗腺)とそのほかの体表の多くに分布する汗腺(エクリン汗腺)が、一般によく知られています。

汗は、水分が蒸発するときに発生するエネルギーにより、身体を冷やしてくれる放熱システムです。気温が高いところでも、汗が出れば体温は適度に下がり、体温を調整してくれます。逆に、寒いところでは、汗を出さないことで放熱を抑制し、体温が必要以上に下がるのを防いでくれます。

私は、患者さんの皮膚の状態を良く観察します。汗もそのひとつ。私にとって汗は、汗を出す汗腺の機能が、しっかり働いているのか?いないのか?を判断するための大切な情報源です。湿度が高いところでは、水分が蒸発しにくくなるので、汗は出にくくなります。当院がある横浜も、梅雨前から湿度が高くなる地域。患者さんの汗が気になります。

また、汗を出す汗腺には、もうひとつ大切な機能があることが知られています。みなさんもご存じのように、栄養素には、糖質、脂質、タンパク質に加え、ビタミンやミネラルがあり、そのミネラル(電解質)には、ナトリウム、カリウム、クロール、カルシウム、マグネシウムなどがあります。汗の主な成分は、水と塩化ナトリウム(塩分)です。汗腺には、水分の調整とともに過剰な塩分を体外に排泄する機能があります。その一方で、身体にとって必要なミネラルを再吸収する機能も備えています。小さな腎臓と言われるゆえんです。

ミネラルは、健康維持、体調管理には欠かせない栄養素。汗をかきにくいことは、体温の調整だけでなく、ミネラルを再吸収する汗腺の機能が低下し、疲れやすくなる要因のひとつと言われています。

汗をキーワードに体調を観察してみるのは、いかがでしょうか?

春に冬が混ざってる

小井土 善彦 2025年04月07日

2月に「冬に春が混ざってる」と、寒暖差が大きな時期の過ごし方を提案しました。桜が散り始めるこの頃も、自身の体感に応じた対応が肝心です。


横浜の桜は、今年は長く楽しませてくれています

日差しが強く暖かい日の日中は薄着を楽しんでも、寒く感じる時は重ね着をして、夏に向けて準備を始めている身体に冷えが入り込まないように心がけましょう。

コンディショニングやリカバリー、美容にも、当院を是非ご利用ください。

次回は、この時期に大切な「汗」について、お伝えしたいと思っています。

女性の更年期症状と鍼灸治療

小井土 善彦 2025年03月25日

更年期は、女性のライフステージにおける大きな転換期であり、女性ホルモンが少しずつ少なくなることにより、ホットフラッシュ、不眠、抑うつ、関節痛など多様な症状が現れます。この時期の健康管理には、単なる症状緩和にとどまらず、ウェルビーイング(well-being)の視点から、心身のバランスを整え、生活の質を向上させるアプローチが求められます。

鍼灸は、自律神経やホルモンバランスに作用し、自己治癒力を高めることを治療原則としており、更年期症状の改善に寄与することが研究で示されています。例えば、ホットフラッシュの頻度を減少させる、睡眠の質を向上させる、ストレスを軽減するなどの効果が報告されています。コクランレビューは、ホルモン療法に比べるとホットフラッシュには有効とは言えないとしており、エビデンスは限定的ですが、薬に頼らず副作用が少ないため、ナチュラルなケアを求める女性にとって魅力的な選択肢となると考えています。また、これらの効果は、単に不調を取り除くのではなく、心身ともに健やかに生きるためのウェルビーイングを支えるものといえます。

更年期ケアにおいて鍼灸は、単なる対症療法ではなく、ウェルビーイングを高める可能性があり、更年期女性のQOL向上に貢献することが期待されます。

当院では、医療機関との連携や治療効果の評価に簡略更年期指数(SMI)を活用し、更年期女性のウェルビーイングをサポートしています。

だって更年期なんだもーん 治療片 最新版

116-117ページに、当院の副院長がツボ療法を紹介しています。

40歳を過ぎ、年齢を重ねるにつれ、それまではあまり気にならなかった肩こりや腰痛が気になるようになった、何となく疲れる、ぐっすり眠れない、一晩寝ても疲れがとれない、気分が冴えずいつももやもやしている、それまでとは異なる症状が続き、自分の健康が気になるようになった方はもちろん、婦人科で処方されたホルモン療法や漢方薬を服用しているがもう少し元気に過ごしたい方も、是非ご相談ください。鍼灸は、ホルモン療法や漢方薬との併用も可能です。

 

愛知県鍼灸マッサージ師会

小井土 善彦 2025年03月19日

愛知県鍼灸マッサージ師会が主催して実施した鍼灸✖️助産プロジェクトの事業『鍼灸師のための周産期ケア講座』が、今回で5回目になりました。今回は、当院から辻内、井上、小井土が講師として参加します。21日(金)は、臨時休診となります。22日(土)からは平常通りとなります。ご不自由をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

疲れた~

小井土 善彦 2025年03月07日

寒暖の差が激しく、着るものにも気を遣うこの頃です。また、この時期は新年度に向け様々な変化や準備に追われ、何かと慌ただしく時間が過ぎていきます。疲れたーと、感じても、一晩ぐっすり眠ればリセットされて、翌日は元気に過ごせていたのに、歳を重ねるごとに回復力が衰えたのか、翌日まで疲れが残ってしまう日が多くなります。疲れも、ただの疲れではなく、問題が隠れていることがあるので医療機関を受診するなど、適切な対応が必要ですが、検査をしても特に問題が見つからない場合は、東洋医学の視点で身体全体をチェックして、鍼灸などにより対処することも一案です。私が所属している研究会の今回のテーマは、ズバリ「疲労と鍼灸」です。

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翌日からの臨床に役立つ情報を、がっちり入手したいと思っています。

妊娠中の腰痛に対する鍼灸治療

小井土 善彦 2025年02月26日

妊娠に伴う生理的な変化は、女性の心身に様々な症状を引き起こします。その中でも、腰部や仙腸関節周囲の痛みは、妊娠中の女性の60~70%にみられ、症状の程度はごく軽いものから、日常生活に支障をきたすほど強いケースもあります。また、産後まで継続する痛みにより、育児に支障をきたし、QOLを著しく低下させるケースもあり、妊娠・出産・産後の育児期における生活の質を向上させる観点からとらえなおすことが必要であると言われています。日本では、妊娠中の腰痛は、装着による保存療法で対処されることが多く、様々な骨盤ベルトが販売されています。また、インターネットでは、「骨盤矯正」の文字が飛び交い、様々な情報であふれています。一方、鍼灸では、自己治癒力を高めることを治療原理としており、肩こりや不眠などその他の症状も同時に改善することが期待できます。腰部や仙腸関節周辺の痛みに対して、痛みがある部位に直接アプローチしなくても、膝から先のツボに施術することで痛みが軽減することを、しばしば経験します。妊娠や出産は母体の仙腸関節に大きな負担をかけますが、自己治癒力を発揮できるように産後の環境が整っていれば、骨盤は自分の力で矯正し、骨盤矯正を目的とした特別な施術やケアは必要ないと言えます。当院が行っている妊娠中の腰痛に対する鍼灸治療を、後ろ向きに観察した研究の一部を簡単にご紹介します。

対象は、骨盤ベルトを装着していたにも関わらず腰痛が改善しないため当院を訪れた妊娠中の女性20例です。初診時の週数は、30.1±5.8週。治療期間は5.4±4.4週。治療回数は4.4±1.3回。治療部位は、下腿の経穴が中心です。痛みの尺度として用いたVAS(Visual Analog Scale)で観察したところ、45.4±29.9mmから21.7±22.3mmに有意(p=0.0339)に減少し、骨盤ベルト装着を併用した妊娠中の腰痛に対し鍼灸治療を併用することにより痛みの程度が軽減したことが分かりました。

妊婦腰痛 骨盤ベルト装着

小井土善彦,辻内敬子,形井秀一. 妊娠中の腰痛に対する鍼灸治療の効果(第3報)-VASとRDQを用いた骨盤ベルト装着の有無による差違の検討-.第61回全日本鍼灸学会学術大会抄録集;2012:237会議録より一部引用改変

せりえ鍼灸室は、妊娠中のマイナートラブルの改善に安心して鍼灸治療を受けていただけるように、助産師資格を有している鍼灸師による施術を提供しています。妊活から産後の育児期まで、是非ご利用ください。

 

産後の不調

小井土 善彦 2025年02月25日

妊産婦さんの負担を少しでも軽減し、自殺に至るケースを無くそうと、様々な施策が実施されています。自殺の要因は複数あり、それぞれが複雑に絡んでいると考えられています。近年注目されている産後うつは、程度や緊急性も様々で、鍼灸師だけでは対応できないケースもあり、保健所や医療機関との連携が欠かせません。そんな中、女性鍼灸師フォーラムの学習会で、貴重なお話を聴くことができました。

東洋医学の基本を忘れずに、患者さんを診て、治療を組み立てることを再認識しました。

ところで、産後の不調に対して、鍼灸師ができることは、妊娠中にお子さんに授けて、少なくなってしまったご自身の元気の元となる「原気」が順調に戻って来るように、自己治癒力を高めることに尽きると、私は思っています。東洋医学は西洋医学とは異なり、私たちの元気の元となる(原気)は、産まれた際に親(主にお母さん)から授かった原気(先天の気)に、産まれた後に食べたり飲んだりして取り入れた地(陰)の気と空気中に含まれている天(陽)の気(後天の気)を合算してできています。その原気を溜める役割を担っている機能ユニットを腎という言葉をあてて表現しています。体に取り込んだ食べ物や飲み物を消化する役割は、脾と胃が一体となり担っています。それと同時に、肺は、ゆったりとした大きな呼吸で天の気を取り込む役割を果たしていると考えています。鍼灸は、そのような臓腑経絡論という説を唱え、それを元に治療を組み立ててきました。鍼灸治療により、産後の不調にアプローチする際は、不調の原因が重大な疾患によるか否かや適応不適応を見分け、適応と判断され臓腑経絡論で説明可能な症状や不調に対し、臓腑経絡経穴論を元に治療を組み立てていきます。

せりえ鍼灸室では、産後も利用していただけるようにベビーベッドを設置しています。妊娠準備期から産後まで、肩こり、腰痛、骨盤ケア、乳汁分泌不足・過多、疲れなど様々症状に対して、助産師さんの資格を有する鍼灸師から、幅広いアドバイスやケアを受けることができます。

 

 

 

研究成果

小井土 善彦 2025年02月22日

お灸の研究が、今月発行された全日本鍼灸学会雑誌に掲載されました。

つくば国際鍼灸研究所で実施した調査を投稿しました。1500人を超える「きゅう師」から回答があり、現在の日本におけるお灸の実態が把握できる内容になっています。

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鍼灸は、時代とともにこれからも発展し続ける伝統医療です。セルフケアの一手法としても可能性が期待できるお灸の研究が、今後ますます発展するように願っています。

当院では、妊活から産後の育児期にかけて元気に過ごせる体力づくりや、術後や更年期の体調管理にも、セルフケアにお灸を取り入れています。鍼が怖い方には、お灸だけの治療にも対応していますので、是非ご利用ください。

 

当院は、日々の臨床とともに、鍼灸が国民の健康政策に取り入れられるように研究活動を行っています。

妊娠中のマイナートラブルと鍼灸治療

小井土 善彦 2025年02月21日

せりえ鍼灸室で実施した臨床研究の一部を改編してご紹介します。

妊娠中のマイナートラブル(MS)は、医学的に母児への影響が少なく、出産後には自然に消滅する症状が多い。MSは、妊婦にとっては幸い症状であるにも関わらず、出産まで我慢することや自助努力で対処することがほとんどです。しかし、妊娠中を心身共に快適に過ごすことは、分娩や産後の生活にも影響を及ぼすと言われています。一方、鍼灸は、腰背部痛、骨盤部痛、肩こりなど運動器の症状や冷えなど自律神経系の症状に加え、イライラや睡眠障害などの諸症状の緩和に有用である可能性があります。妊婦マイナートラブルに対する鍼灸の影響を,質問票を用い,骨盤位の妊婦を対象に介入群と対照群で検討しました。その結果、妊婦のマイナートラブル(40症状)に対して、鍼灸が与える影響を検討した結果、介入群に発症数と発症率の減少がみられたことから、妊婦のマイナートラブルの軽減とQOLの向上に鍼灸は選択肢となる可能性があることがわかりました。

妊娠中のマイナートラブルと鍼灸治療

辻内敬子、小井土善彦、木津正義、形井秀一. 妊婦のマイナートラブルに鍼灸治療が与える影響. 母性衛生 2017; 58(2): 443-51.より

当院では、逆子が治っても腰痛や肩こり、冷え、不眠などの改善や安産に向けた健康増進を目的に、出産近くまで治療を継続する方がいらっしゃいます。

妊娠や出産は、お母さんの元気を大きく消耗します。それは計画分娩や麻酔(無痛)分娩も同じです。妊活中から産後の育児期に向けた健康づくり(プレコンセプションケア)が注目されています。体力に自信がない、疲れやすい、腰痛、むくみや冷えなど様々な症状がある方、元気に育児をスタートさせたい方も、当院の鍼灸治療を是非ご活用ください。

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プロフィール

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せりえ鍼灸室院長
小井土 善彦
現代はストレス社会と言われていますが、その「ストレス」という言葉の由来は、1936 年頃、カナダの生理学者ハンス・セリエ氏(Hans Selye)が発表した「ストレス学説」にあります。 セリエ氏は一定の「ストレス」を感じると、体に一連の症状が現れることを発見しました。...

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辻内敬子

せりえ鍼灸室副院長
辻内 敬子
私たちは、女性の元気と美しく輝く人生を応援しています。貴方が母となることを選択した時から、そして妊娠した時から、幸せに満ちた人生のために、体と心 のケアを行います。 妊娠したらゴールではありません。妊娠期間中に出産準備のための体作りが必要です。...

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