妊娠中の腰痛に対する鍼灸治療
小井土 善彦 2025年02月26日
妊娠に伴う生理的な変化は、女性の心身に様々な症状を引き起こします。その中でも、腰部や仙腸関節周囲の痛みは、妊娠中の女性の60~70%にみられ、症状の程度はごく軽いものから、日常生活に支障をきたすほど強いケースもあります。また、産後まで継続する痛みにより、育児に支障をきたし、QOLを著しく低下させるケースもあり、妊娠・出産・産後の育児期における生活の質を向上させる観点からとらえなおすことが必要であると言われています。日本では、妊娠中の腰痛は、装着による保存療法で対処されることが多く、様々な骨盤ベルトが販売されています。また、インターネットでは、「骨盤矯正」の文字が飛び交い、様々な情報であふれています。一方、鍼灸では、自己治癒力を高めることを治療原理としており、肩こりや不眠などその他の症状も同時に改善することが期待できます。腰部や仙腸関節周辺の痛みに対して、痛みがある部位に直接アプローチしなくても、膝から先のツボに施術することで痛みが軽減することを、しばしば経験します。妊娠や出産は母体の仙腸関節に大きな負担をかけますが、自己治癒力を発揮できるように産後の環境が整っていれば、骨盤は自分の力で矯正し、骨盤矯正を目的とした特別な施術やケアは必要ないと言えます。当院が行っている妊娠中の腰痛に対する鍼灸治療を、後ろ向きに観察した研究の一部を簡単にご紹介します。
対象は、骨盤ベルトを装着していたにも関わらず腰痛が改善しないため当院を訪れた妊娠中の女性20例です。初診時の週数は、30.1±5.8週。治療期間は5.4±4.4週。治療回数は4.4±1.3回。治療部位は、下腿の経穴が中心です。痛みの尺度として用いたVAS(Visual Analog Scale)で観察したところ、45.4±29.9mmから21.7±22.3mmに有意(p=0.0339)に減少し、骨盤ベルト装着を併用した妊娠中の腰痛に対し鍼灸治療を併用することにより痛みの程度が軽減したことが分かりました。
小井土善彦,辻内敬子,形井秀一. 妊娠中の腰痛に対する鍼灸治療の効果(第3報)-VASとRDQを用いた骨盤ベルト装着の有無による差違の検討-.第61回全日本鍼灸学会学術大会抄録集;2012:237会議録より一部引用改変
せりえ鍼灸室は、妊娠中のマイナートラブルの改善に安心して鍼灸治療を受けていただけるように、助産師資格を有している鍼灸師による施術を提供しています。妊活から産後の育児期まで、是非ご利用ください。